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ブラックジャック先生はなぜ高額な手術代を要求するのか〜医師になってやっとわかった

 ブラックジャックといえば手塚治虫先生の代表作であり、手塚先生の没後も何度もアニメ化されたりイケメンマンガになったりエロマンガになったりしています。BJは凄腕の外科医でありながら、無免許のモグリで高額の手術代を要求するというダークヒーローでもあります。設定だけでめちゃくちゃカッコイイですよね。BJを読んで医師になったという先生を今まで何人も見かけました。



○BJはなぜ大金を要求するのか


 BJは手術代として正規の医療費より法外な金額を請求します。この理由としてよく挙げられるのが「患者の覚悟をみるため」です。相手が貧乏でも金持ちでも大金を請求し、「どんなことをしても払います!」という患者に「それが聞きたかった」というのです。「なぜそんな高く請求なさるんです、ムチャクチャだ!!」と言われたBJは「高いと思いなさるかね、そりゃァあんたが死ぬほどの苦しみをしてないからですよ」と答えています。BJにとって手術は患者の何をしてでも治りたいという気持ちに応えるという命がけのものであり、それだけ命の価値は重いと考えているようです。

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 しかし数百円やラーメン1杯で手術したり、手術後にお金が返ってくるようにしたりもしています。「患者の覚悟をみるため」以外の大金を要求する理由があるのではないでしょうか。そしてそれは「お金のために手術していると思いたいから」だと思います。



○お金のために手術していると思いたい


 BJが何度も口にしている言葉として「医者は神様じゃない」があります。BJは凄腕の外科医であるがゆえに助けを求められたり、泣いて喜ばれたりと神様のように扱われることが多いのですが、BJ本人はそれを否定し自分は金のためになんでもする悪質な医者だと言っています。

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 たしかにBJは母親の復讐相手を探したり、移植用の新鮮な死体を用意したり、人工心臓を開発したり、ナショナルトラスト活動をしていたりと途方もないような金額を必要としています。しかし、BJが手術をするのはお金のためだけではありません。それではなぜBJが手術するのかというとそれは、医者だから、です。それがBJにとって生きることであり、目の前に手術が必要な患者がいればうずうずして仕方がありません。

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 つまりは自分のためです。もちろんBJも患者から感謝されることに喜びを感じているようですが、それ自体は理由ではなく、BJは自分が手術したいから手術しているのです。同時にBJは患者を治したいとも思っています。しかし、いくらBJが完璧な手術をしても患者が死ぬことがあります。術中死することもあれば、術後に感染症で死んだり、交通事故にあったり、患者が自殺したり、意識を取り戻した途端に患者が老いていくということもありました。BJは患者が死ぬといつも歯を食いしばるほど悔しがり、泣いて自分を責めます。

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  そういった医師の苦しみに対しての一つの答えが本間先生の「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思わんかね」です。この言葉を手術前の患者が聞いたらがっかりするのではないでしょうか。この言葉は逃げです。人智を超えるようなことなのだから患者が死ぬのは仕方なかったのだ、ということです。自分のせいで人が死んだ時、そう思わないと人間はやっていけないのではないでしょうか。「ありがとうございました。ここまでつくしてくださって。」と言ってくれる患者家族もいますが、「このヤブ医者めが!!」と罵られることも多いです。そういった医者の苦しみから逃れるために「患者を治したいから手術しているわけではない、金のためにやっているのだ」と思いたいのです。

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○患者を治したいのは医者のエゴなのか


 BJの苦しみは現代の医者に通ずるものであり、これに明確な答えが示されているわけではないです。しかし連載版の最終回である「人生という名のSL」では一つのキーワードを本間先生が教えてくれます。それが「このクランケをたとえロボットのようにまでかえてなおしたとしてもクランケが悲観して生きるのぞみを失ったらどうする?医者は人をなおすんじゃない、人をなおす手助けをするだけだ」だと思います。今までさんざん人工臓器を使ってきたBJにはキツイ言葉です。

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 医者が患者を治したいというのは医者のエゴでしかない瞬間もあるのではないでしょうか。実際の臨床でも医者の思惑と患者の思惑がすれ違うというのはよくあることです。必要もない副作用があるだけの薬を欲しいという患者、明らかに手術すべきステージなのに薬で治したいという患者、老衰を迎えつつある老人を治療してくれという患者家族、こちらの話を全く聞かず前の医者はヤブだったという話を延々とする患者、咽頭癌になってるのに隠れてタバコを吸う患者、・・・とキリがありません。医者が誠意をもって診療していても金目的だとか天狗になってるとか言われることもあります。それでは、医者は患者の言いなりになって患者が望むことだけをすればよいのでしょうか。患者を治したいだとか思わずにただお金目的でいればいいのでしょうか。高度化する医療の世界で患者はよくわからないままに選択をしないといけないことがあります。その時に医者はどこまで患者の人生に関わってよいのでしょうか。他にも安楽死やスパゲティー症候群、障害児中絶、医療ミスといった医療倫理の授業課題になりそうなエピソードもあります。研修医が雑用ばかりさせられる、女性患者がヒステリーにより腹痛をおこす、素人に知識をひけらかされるとイラッとするなどの医者あるあるもあります。CTもろくにないBJの時代と現代の医者とそんなに変わらないことで悩み続けているのかもしれません。